SOKA薬王のBlog

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ある指導者の愛 五島勉 著

「微笑のきびしさ」

 一度しか会ったことのないおおぜいの仲間や後輩の顔を、吉良さん(当時の吉良香代子女子部長、現・浅野香代子さん)は実によくおばえている。私はさきにそう書いた。ただおぼえているだけてなく、彼女はひとりひとりの仲間の境遇や気待ちをよくのみこんで、いつも力づけ見守っていることも書いた。


 だが、こうした彼女の記憶力や気づかいも、彼女が尊敬する、ある男性のそれには遠くおよばない。吉良さんにかぎらず、すぐれた記憶力や指導力をもったリーダーは各界におおぜいいるが、その男性に匹敵するほどの人は多分いないのではないかと思う。なにしろ、そのひとは、十年も二十年もまえに、たった一度会って、ほんのひとこと話しただけの仲間のことも、ほとんど完全におぼえているのだ。


 彼はだから、忙しい執務や執筆の合間に、突然こんなふうにいう。「沖縄のAさん、顔色が悪かったけど大丈夫かな」「バリのBさん、あれから夫婦仲よくやってるだろうか」「アメリカのC君、あの恋人とうまく結婚てきたかなあ」……。問いかけられたそばの人たちは、たいていまごついてしまう。彼らは、それを思い出すのに時間がかかり、ときには全然思い出せないこともあるのに、そのひとの胸のなかには、いつも数知れぬ無名の同志たちのことがきざみつけられているらしいのだ。


 同志に対してだけでない。彼の青年時代の知人、昔住んでいた地域の人たち、訪れた有名無名のさまざまな人物、外人記者、私のようなレポーター。――だれのことでも、あきれるくらいよくおぼえている。そしてあれこれと気にかけている。それがはるか遠い日の出会いであっても。また、かりにその相手がそのひとにとって決して愉快とはいえない相手であっても。


 ほかの人のことより、私自身の経験を書こう。私は、そのひとが大きな組織のリーダーに選ばれて間もないころ、そのひとに最初のインタビューをした。当時、私はまだ生意気ざかりのレポーターで、上衣もネクタイもつけず、ヒッピーみたいな薄いセーター一枚の格好でそのひとに会いにでかけたものだ。


 そのひとは、質素だがきちんとした背広で、ニコニコして会ってくれた。誠実に質問に答えてくれた。そして別れるとき、「十年たったらまたいらっしやい。十年後、我々の組織はあなたの想像以上に発展しているはずです」といった。


 私は、この約束を守って、十年後にまた会いにいこうと思っていた。だが、十年たたないうちに、その組織とその組織の思想は、私の想像をはるかに上まわる発展をとげてしまった。で、私はその状況をレポートするため、七年ぶりにまたそのひとにインタビューすることになった。