SOKA薬王のBlog

SOKA薬王のBlog

ある指導者の愛8

「あっ、まえに会ったね。バスの窓でだったね。あのときより顔色、よくなったなあ。そうだ。その後お母さんの具合、どう? 元気になられた? うん、そればよかった! こんどはきみがしあわせに……」


 しあわせになるようにがんばるんだよ、とそのひとはいいたかったらしい。だが、「先生! 先生!」とさけぶ仲間たちの声と溶けあって、そのひとの言葉はもう木村さんに聞こえず、その姿は仲間たちの渦のむこうにたちまち遠ざかってしまった。


 あの三年前の握手のときと同様、今度もほんの数秒、せいぜい十数秒の間のできごとだった。しかし、木村さんには、そのときいっさいの時間が進行をやめ、永遠の一瞬が胸に焼きつけられたように感した。永遠に消えない炎が、音をたてて胸に燃えあがったといってもよかった。


『わたしはただ茫然と立ちつくしていました。涙がふき出して止まらず、何も見えなくなりましたが、恥ずかしいとは思いませんでした。……先生は覚えていてくださったのです。母の苦しみやわたしの闘いを、ちゃんとわかっててくださったのです。そして、母とわたしが、苦しみのどん底から立ちあがれましたことを、一緒に喜んでくださったのです。


 わたしはもう何も恐れません。どんな苦しみが襲ってこようとも、わたしにはいつも見守って励ましてくださる方がいるのです。……わたしはそれを一生信じて、母とともに揺るぎない幸福を築きつつ、明るく生き抜いてまいりたいと念じております』木村さんの長い手紙は、ふきあがるような感情をたたえて、ここで終わっていた。