ある指導者の愛3
「そのひととウィスキーの話」
そんなわけで、私はこの二回目のインタビューを、緊張しきってすごした。そのせいかどうか、そのひとの新しい抱負や思索をいろいろ聞きだすことができ、私はホッとした。それから雑談になって、私はそのひとから、「ところで、あなたは酒は好きですか」とたずねられた。
私は、「好きというほどじゃありませんが、仕事で疲れたときなど、ときどき飲みますよ。高級なものは飲みません。J(アメリカの大衆的なウイスキー)なんかうまいですねえ」と答えた。そのひとはしかし、あまり関心がなさそうに、すぐほかの話題に移ったので、私も酒の話は打ち切った。充実したインタビューは終わり、私は礼を述べてそのひとと別れた。
すると、その会見記を週刊誌に書き終わったころ、私は思いがけなくそのひとから招かれた。何ごとだろうと行ってみたら、そのひとの質素なデスクのうえには、私がなにげなく話したJウィスキーの大きなビンがデンと乗せられてあったのである。「きょうは飲みましょうよ」そのひとはほほえんで快活にいった。そして私のまえのグラスになみなみとついでくれた。そのひと自身も、満たされたグラスをとってぴと息に飲んだ。私はそのひとの心づかいがうれしく、そのひとのあざやかな飲みっぷりにもさそわれて、その日はいつになく飲んだ。
おおぜいのなかの一人にすぎない私のため、わざわざJウィスキーをさがし、一緒に飲んでくれたというのは、そのひとのような立場の人にとっては、ひどくわずらわしいことだったに違いない。私にとっては、大変うれしかったの一語に尽きた。だが、話はこれだけではない。