SOKA薬王のBlog

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ある指導者の愛7

「愛は奇跡のように」

 木村さんは、もちろん第一番にかけつけた。おおぜいの仲間と一緒に、一心に会場を清掃して、そのひとを迎える準備をととのえた。木村さんとしては、そのひとの姿を遠くからでも見て、一家がよみがえることのできたお礼を陰ながら述べたい――それが望みのすべてだった。


『ほかには何も望みませんでした。先生にとっては、わたしは一千何百万人かの仲間の一粒でしかありません。あのバスの窓でわたしの手を握ってくださったことなど、わたしが母の病気のことまでお願いしたことなど、むろん覚えていらっしやるわけがありません。……だから、先生が会場に来られて、みんなで記撮影をしたときも、わたしはずっと離れたところに控えていたのです』


 そのため目をあわせる機会もなかった。そのひとは記撮影の間じゅう、近くに座った地域の女子幹部たちに、「やあ、あのときのAさんだね」「Bさん、元気でやってる?」などと声をかけていたが、木村さんのほうにはふりむかなかった。それでも、木村さんは、またそのひとと会えたことだけていっぱいに満たされた。


彼女は(先生、ありがとうございました)心のなかで何度もさけんだ。記撮影は終わり、人垣はそのひとを中心に崩れた。ところが、その直後――ほとんど信じられないようなことがおこったのである。渦まく人垣のなかで、木村さんはもみくちゃになって、そのひとの近くまで押しやられた。そして偶然のようにそのひととハッと目が会った。そのひとは仲間たちから握手ぜめにあっていたが、その瞬間、木村さんにピタリと目をとめ、やさしい笑顔でこう呼びかけてくれたのだった。