SOKA薬王のBlog

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太田昭宏「真っ向勝負」15


ライフストーリー3「政治」



 商工委員会でも議論は百出したが、太田は中小企のバックアップに全力を入れるべきであると主張した。明日の会社の運転資金がないのである。経営者が銀行に融資を申し入れても「残ながら、融資額に見合う担保がございませんので……」と断られた。いわゆる貸し渋りである。バブル期にあれほど満面の笑みで歓待してくれた融資担当者が別人のように冷淡になった。
 

この年は自殺者がはじめて三万人を超えた年だった。一日に九十人もの人が自ら死を選んだのである。「負債」や「事不振」などによる中高年の自殺が急増していた。
「うちの父ちゃんを殺したのは、いったいだれだ!」残された遺族は、やり場のない悲しみと怒りにふるえた。すべての重荷を経営者ひとりが背負わなけれぱならない中小零細企には、そこまで自分をさいなんでしまう、まじめで責任の強い人が多いことを太田は知っていた。


その人たちの力にならなければ、何のための政治だろうか。大企や銀行を守ることだけが政治ではない。こう考えた太田は、中小企への信用保証協会の特別保証制度を成立させる推進役となった。これによって、無担保で五千万円までの融資が可能になった。どれだけの中小企が救われたことだろうか。白昼からシャッターを下ろしていた下町の工場街にも、少しずつ部品を製造する音が聞こえるようになった。