SOKA薬王のBlog

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如何にして医療の質の低下を食い止めるか

身体観の変化における歴史的考察と展望


池田醫院院長


池田醫院にはベッドも一切の診療機具もない。自らの覚だけを頼りに独自の医療実践を京都で行っている。下の論考は、かつての医学が育んでいた人を「みる」能力の復権を説くものである。いわば言葉にならない身体経験を言葉ではなく技を通して伝えていく・歴史が描きだされている。文化に根ざした医療はどれも正しいという本論の論調は、単なる近代医学批判ではなく、私達が自らの身体に関わる姿勢そのものを問いなおさせるものであろう。


教育思想史学会より


はじめに


現代において医療の質の低下が顕著に現れ始めている。ほんの数十年前の診療技術(望診、視診、触診等)は大変優れたものがあった。それに対し、今日の診察技術は如何がなものであろうか。確かに医療機器の進歩には目を見張るものがある。医療機器は進歩したがこの事実のみで医療全体の進歩と言えるのであろうか。充分な医療機器が揃った病院でなければ充分な診療はできないという現状がある。それは言い換えれば医療機器がなければ医師は何もできないということである。医師自身の側からすれば、もしかするとこの変化は退歩ではあるまいか。


現在、教科書でしか知る事の少ない視診や望診は消滅しつつある。顔色を観る、或いは眼の勢いを観る、また体全体からじるものを観ることは臨床現場においては大切な診察の要素であるにも関わらずそれを具体的に教育するものは存在しない。臨床の現場においてはが備わっていることが必要なのである。更にはこの退歩といえる変化は診療技術上の問題だけであろうか。否、そうではあるまい。その背景に確実に人々の身体を捉える観(以下「身体観」と呼ぶ)の変化が認められるのである。更に云えば、「医療」の質の低下ではなく「医師個人」の身体の質の低下であるといえる。